ドッペルゲンガー 黒沢清

ドッペルゲンガー [DVD]

ドッペルゲンガー [DVD]

自己の多層性をテーマとした喜劇映画。役所広司の演技が実に素晴らしい。永作はやたらかわいい。ブライアン・デ・パルマのような、分割カメラをフル活用した映像の作り方、ショットのつなぎ方もおもしろい。最後のオチのつけかたも悪くない。言うことなしの傑作だった。
確固たる自己なんてもんは幻想にすぎない。目には見えなくとも、ある意味では人は誰もがドッペルゲンガーを抱えて生きている、そういうことではなかろうか。自分の分身(ドッペルゲンガー)と折り合いをつけるということは、すなわち、「確固たる自己がまずある」という近代的な前提を捨て去ることだと思ふ。

この人の映画は、うざったいだけの「自分探し」的な方向性や、登場人物間の恋愛関係といった要素を意図的に廃して作られていると思う。そこが好きだ。青山真治の映画と違って、登場人物が「生きるってなんだろう・・・?」みたいな青臭さ満点の台詞を吐くこともないので、現代の若者の生き方を扱った「アカルイミライ」も、まるであざとくなかったし。