園子温 気球クラブ、その後

年食ったおっさんは、若者文化をわかったつもりになって描こうとするのだけはやめてほしい。そういうことをついついやりたくなってしまう気持ちはわからなくはないが、世代間格差というのはやはり厳然たるものとして存在しているわけだから。

まあある意味ではイタさ全開の今作こそ園子温らしいとも言えるんだが、その方向性が問題。ただの自意識過剰なら微笑ましく見ていられるが、エセ社会学的な要素が入ってくると、さすがにキツイ。そのあたりは最近宮台なんかとつるんでるのが悪い方向に影響してしまっている気がしてならない。

気球サークルの仲間達がリーダーの死をきっかけに五年ぶりに再会。そこで交錯する様々な思い。メンバーはそれぞれ過ぎ去った時間の流れに想いをやり、青春に決着をつけようとする。

筋としてはまあありがちな青春もの。時間の流れによって変わらざるを得ない感情が主なテーマとなっている。まあ描き方次第で傑作にもなり得るテーマだろう。ただ、今作はどう考えても駄作だった。何が悪かったのかを考える前によかったところを確認しておこう。

永作博美の美しさと川村ゆきえのエロさは素晴らしかった。永作はドッペルゲンガーが映画デビュー作だったらしいが、35過ぎてるとはとても思えない魅力に加えて演技もいけるってことでその後は主な活動フィールドが映画に移ってきてる模様。今作でも次郎との飲み会、部屋での絡みのくだりですさまじい可愛さを見せていた。川村ゆきえはアホ女役がはまっていた。最初のサービスカットがやばすぎだった。あの体は反則。
サークル内での複雑な男女関係の描写は悪くなかった。途中までは。付き合ってる奴はいるけど他の子が好きで、みたいな。まあありがちはありがちだけど、誰もがある程度納得せざるを得ない感じの、これぞ青春、って感じは出てた。永作の魅力ありきだったにせよ。

まずかったとこは言い出すとキリないが、まず一番でかかったのは、おっさんの社会学で学んだ知識開陳!って感じ丸出しの若者観。特に携帯がらみのくだりはひどすぎ。これでみんなとつながってるだけなのかな、とか女の子に言わせるとこは最低。もっとひどかったのは再会後気球バーの残骸を捨てに行くとこで、ホームチームのデブがここで一区切り、再出発ってことでみんなお互いのメモリーを消しあおう、とか大声で叫びだし、それに続いてメンバー全員が一人ずつ、名前〜のアドレスと番号消してくれ!と叫ぶとこ。爆笑してしまった。メンバーにガチンコファイトクラブの一期生がいたのもどうでもいいが笑えた。網野くんの横にいた奴。
あとは、臭さ満点の台詞の数々か。映画だから、ってことで入り込めれば気にならなかったのかもしれんが、いくらなんでも度を越えていた。寺山的な要素や詩的な表現はおそらく意識的に抑制されていたように思う。(本格的にモウロクしてるだけなのかもしれんが。)それも若者への彼のうざったい視線が感じられて腹立った。死んだリーダーのキャラも滅茶苦茶だった。そういえば。風船背中につけて行動してたし。キチガイか、と。
そもそもテーマ曲になってた歌謡曲の失恋ソングにインスパイアされて作った映画らしいのだが、明らかに時代設定と比べて浮きまくりのテーマ曲がやたらと強調されて出てくるのもひどかった。力入れて作った作品じゃないのはわかるが、いくらなんでも杜撰すぎるだろ脚本が。時代設定が9・11の直後ってのも今考えると笑える。06年公開だから劇中の五年後とかけてるんだろうけど、舐めんなって感じだ。