立川志の輔 中村仲蔵

実在した歌舞伎役者中村仲蔵の活躍を元に練られた古典落語
歌舞伎と落語、ジャンルこそ違えど日本の伝統芸能という意味では相通ずるものがある二つのジャンルを跨いで志の輔師匠のイリュージョンが炸裂する。
本当の意味で、伝統を引き継ぐということは、すでに完成された形式を持つものの素晴らしさをきちんと継承することでもあるが、それだけに留まるものではない。そこに自らの創意を新たに加えることで、時代の空気に合った新しい表現を作り出していくことこそが、時代を超えて伝統を引き継ぐということの本義であるはずだ。
志の輔師匠の「中村仲蔵」は、パルコの舞台装置をフル活用し、噺中のクライマックスである忠臣蔵五段目の場面では、実際に歌舞伎の舞台で使われる音響をそのまま再現して見せるなど、落語の表現の限界を軽々と乗り越える見事なスケールの大きさを見せてくれた。仲蔵が従来の斧定九郎の役作りの限界を持ち前の想像力で乗り越えて、周囲に認められるこのシーンを、志の輔師匠は従来の落語の枠を大きく超えるスケールで演じきったのだ。歌舞伎の可能性を押し広げる仲蔵の名演を、落語の可能性を信じる志の輔師匠が見事に再現したこのシーンには、仲蔵に対する志の輔師匠の共感、敬意が伺われた。さらなる創意を加えることで見事に仲蔵の演技の革新性をも落語上で表現した志の輔師匠にはあっぱれと言うしかない。