桜井章一・甲野善紀 「賢い身体、バカな身体」

昼間から新宿紀伊国屋店頭で立ち読み読破。桜井章一という人は、もはやほとんどの人間が十分に持ち合わせていない、動物としての野性の勘が、人並はずれて鋭い人なんだと思う。余計な事を一切考えていない感じも好感が持てる。人間性に拘ることなく自然体で、動物としての生を貫いているところが、多くのしがらみに囚われた人々に響くのだろう。そのあたりは、一緒につるむような距離感の近い友人はいなくとも、多くの仲間に恵まれたという点も含めて、深沢七郎と重なる部分が非常に大きいと思う。
見事な力の抜け具合、タブララサぶりが、周囲の人間に対する優しさや気遣いにつながるというあたりは、去年の秋の会話を思い起こさせる感じがした。
身体の感度をどこまで高めていけるか、というのはとにかく重要になってくると再確認。

甲野氏の発言の中では、江戸の職人にまつわるエピソードや、韓氏意拳の達人の話なんかに惹かれた。あとは自身の身体技法について語っていた部分で、ある時から指先の無意識の動きを肯定的に捉えることができた云々の話も実にオモロだった。野口先生の言う活元運動というやつとつながってくるだろうし、数多くのメカニズムが同時に作動して一つの動作として結実するという見方から言えば、あらゆる身体動作はポリリズム的と言ってもよい気がする。
甲野氏が21歳で気づいた真理として再三言及していた、『人の運命は完全に決まっていて同時に完全に自由である』という言葉も実に気になった。