ヘルダーリン詩集 岩波文庫

後期の詩にはいくつか気に入ったものがあった。「ライン」「パトモス」「記憶の女神」あたり。特に「ライン」はいい。「不幸は耐えがたく 幸福はさらに耐えがたい」とか。
ただ明らかに訳で読むと良さが半減しているんだろうな、というのは随所に感じた。訳した時点でまるで韻を踏めなくなるのは致命的だよな、とか。
あとは、気がふれてしまった後の詩の言語感覚の壊れ方が気になった。もう少し読んでみたいので他の会社から出ている訳詩集をあたってみたい。

頻出の比喩の中では、昼と夜を対比させる表現が面白かった。かなり多くの詩に出てくる対比だったが、夜、無知が恐ろしいもので、それを知、認識の光で照らしていく、といった単純な構図に収まるような、わかりやすい比較ではなかったところに凄みを感じた。たしか丹生谷氏の本に書かれていたのだったと思うが、本当に恐ろしいのは闇の偏在ではなく、光の偏在である、といった話が、なんとなくヘルダーリンの感覚と関係しているように思った。光の偏在とはすなわち分裂病的な狂気のあり方であり、おそらくその世界は、気がふれて引きこもるようになってからのヘルダーリンが生きた世界に非常に近いものだったのでは、とか。おー、こわ。