羊をめぐる冒険 村上春樹

キザなノリがどうしても苦手というのはあるが、それを差し引けばまあ出来はいいかもな、と思えた。最初の三部作は結果として特に嫌悪感を閾値以上に抱くこともなく読めた。
彼の異常ともいえる人気はその読みやすさから来ているのかもしれないが、少なくともこの作品に関して言えば、さらっと読み飛ばせるような薄っぺらいもんではなかった。

羊が日本の近代を象徴している、などと言うつもりはない、といったような黒服の発言が作中に出てきたが、実際にはそういう面があることは否定できないだろう。
おそらく村上春樹はこの作品によって、彼にとっての六十年代に対して落し前をつけようとしたのだと思う。終盤の展開や「羊抜け」の説明などから考えると、どうしてもそういう意図があるとしか思えない。なんとかして物語化することで、自分の中で六十年代を納得できる形で消化したいという、大戦後の文学みたいなロジックが裏にあるような気がした。
その点で言うと、似たような意図で書かれたであろう、高橋源一郎「さようなら、ギャングたち」との比較はおもしろいと思う。日本における現代文学の二大巨頭といってもいい二人の、六十年代に対するスタンスの違い、っていう。