中島らも 牛乳時代

らも氏オリジナルの新作落語17本を集めた本。
他の本でいくつか読んだコントの台本と、これらを見る限り、彼はかなり理詰めでネタを作っているような気がする。だからネタがかなりモンティ・パイソンに似てるんだろう。
理論は完璧なんだけど、インテリ臭さが抜けない感じ。
正直、全然笑えなかったネタもいくつかあったし、言葉遊びのセンスなんかは、あまりない人のような気もする。落語だと全体の構成がうまいのでまだいいが、コントの台本になると、会話部分が寒い場合が多々あり、なかなかきつかった。

収録されている噺の中では、「たたみ往生」、「ふぐの通夜明け」、「牛乳時代」、「水に似た酒」、「スウィートホーム」あたりはなかなか良く出来ていたと思う。

らも氏は笑いの持つ差別構造に非常に敏感で、かなり確信犯的にそれを意識してネタをつくっているように見えるが、表題作となっている「牛乳時代」のアホな子供への視線には、ある種の愛情もこもっているように感じた。「笑い」と「嗤い」を分かつのはここなんじゃないか、という気もしてきた。対象への愛情があるか、ってこと。

このあたり糸井、春樹的な所謂「ヨコナラビの差異肯定」が偽善に過ぎないのに対して、根本敬の変人への目線には愛情が感じられる、というのと似ている気がする。
ただ、らもにしろ根本にしろ常に、「本当は自分も見下してるだけなんじゃないか」、という疑念から逃れることはできないわけで、そう考えると、二人ともが精神病になったことがある、というのも、そのへんのことと無関係ではないだろう。おそらく。