ジョン・マクレガー ヘンリー・ダーガー 非現実の王国で

作品自体はそれほど好きでもないんだが、いかにして創り上げられたか、という部分に非常に惹かれた。
ヴィヴィアン・ガールズをはじめとする少女達の画は、はじめ新聞広告やチラシの切り抜きを集めていただけだった作者が、じょじょにそれだけでは飽き足らなくなって、切り抜いたお気に入りの少女の画をトレースし、それを自分の作品「非現実の王国」の文脈に配置し直すようになっていったものだったらしい。一切絵画の教育を受けていない彼は、模倣からはじまって、少しずつそこに自分のオリジナリティー(チンコ生やしたり)を付け加えていくことで、自身のスタイルを創り上げていったのだろう。

やたらと解説で言及されていた、作者の狂気が最もよく現れていると思われる、臓器を引きずり出される女の子達が細部まで精緻に描かれた三面セットの処刑場面を描いた作品なんかも印象的だったが、全体としては、色彩感覚の豊かさに最も感心させられた。完全な孤独状態で日々を過ごすなかで、作品世界へ逃避していく傾向がどんどん強まっていくとなれば、アンフォルメルのような暗い色ばかり使う方向に行ってしまいそうなものだが、彼の場合は逆に緑や黄色、赤など鮮やかな色が中心となっていた。人が死にまくっている画なのに、なぜか色彩は明るい、というのは妙な感じがして面白かった。作品世界に逃避していたということで、ユートピア的な側面が強かった、ということかもしれない。

原稿用紙にして一万ページ以上という、おそらく史上最大級の長さの物語を、ほぼ一生かけて書き上げた、という部分には非常に興味を惹かれたのだが、文章にはまるで魅力を感じなかった。やや知能障害気味だったせいもあるのかもしれないが、文法を無視するような表現が多用されていて、それを無理に日本語に訳しているので、さらにわかりにくくなっていて、いまいち入り込めなかった。