キム・ギドク うつせみ

これほど独創的な作品は久々に観た。とにかく監督の発想力に圧倒された。
まず、空き家に侵入して、そこで住人の送っているであろう日常生活を送ることを習慣としている、という無茶苦茶な主人公の設定に驚愕。しかもなぜか草木に水をやったり、壊れている機械類を直したり、洗濯物をわざわざ手洗いしたりする、っていう。ぶっ飛びすぎ。必ず住人の写真と自分のツーショットで写メール撮るのも笑えた。
そんな主人公がある日侵入した住宅で女と出会う。女は同居している夫と険悪な仲になっており、主人公と共に家を出る。それからは二人で他人の家に侵入する日々がスタート。
ある日帰ってきた住人に見つかり、老衰で孤独死した死体を埋葬したのを殺人と間違われたのもあって、投獄されてしまう。そこからはさらにぶっ飛んだ展開。なぜか獄中で監視員の視界から隠れることに没頭しはじめる主人公。晴れて出獄となった頃には完全に気配を消す術を身につけており、その技でかつて侵入した家々を再訪。最後に女の家に戻る。主人公に気づかない夫をよそに、二人は夫の目の前で接吻を交わす。朝飯も夫がそっぽ向いてる隙に逆からとったりして上手いこと食べる。ってそんなアホな!という感じでなぜか映画は終了。主人公がゴルフボール撃ちに以上な執着を燃やしているのも意味不明だし、主人公と女がほぼ終始会話ゼロ、ってのもすごかった。

とにかくべらぼうに面白かった。気配を消せるようになった後、カメラが主人公の視点となって各部屋をゆらめくように動くシーンなど、画も美しいシーンが多かったし、二人で侵入生活しているときの、女が少しずつ主人公の真似しはじめるのもよかった。
上映中、要所要所で常に何人かがクスクス笑っていた。確かにえらいユーモアあったし、なにより不思議な魅力に溢れた作品だった。あまり言葉で語ってもしゃあない感じの魅力。まさに映画にしか出せないような。

序盤の歩く主人公をやや遠めから斜めに撮っているシーンで、ずっと下駄の音がしていて、途中で下駄はいたおっさんがフレームインしてきてまたいなくなる、ってとこもよかった。カメラの外側をうまく想像させるシーンだった。基本的に各シーンの構図は綺麗な人だと思った。