IWGP 永田VS真壁

美しい嘘

新日IWGP 永田VS真壁を観た。久々にプロレスの真髄に触れたような気がした。まず入場前の煽りVTRが非常に良い出来。エリート・永田と雑草・真壁というわかりやすい対立軸の強調。真壁がヒールという「居場所」を手にするまでの軌跡がわかりやすく示されることで、彼がヒールという役割を演じることの重要性が客席に伝わる。

そんな中客席の真ん中から真壁が登場。早くも客をつかんでいる。そして試合序盤から、早速持ち味のサービス精神にあふれたヒール振りを披露。いかにもヒール然とした立ち居振る舞いの数々の裏に、真壁の覚悟が見える。椅子攻撃やチェーン攻撃など、お約束のムーブを繰り出す真壁のあまりにも充実感に満ちた表情に、このあたりからもう涙が止まらなくなる。

カットで大量出血した永田も負けない。華麗な技など全く出す余裕がなかったのだろう、無骨な蹴りや投げを連発していたが、その気迫は十分に見ているほうに伝わってきた。真壁の暴走に怒った選手会長飯塚や海野レフェリーが、彼に食って掛かるところも素晴らしかった。真壁の暴れぶりにこれ以上ないくらいの説得力があったから、二人の介入も、客席に妥当なこととして受け取られていたように見えた。これは小さなことのようだが、非常に大きい。ここ最近の新日で、これほどまでに小競り合いに胡散臭さを感じないことが他にあっただろうか。形式的でおざなり感にあふれた抗争の連続で、呆れるほどだった、というのが正直なここ数年の印象である。当たり前のことが、当たり前のように観れた、このことがすでに現在のプロレス界においては非常に貴重。気のせいか飯塚や海野レフェリーの表情も輝いていたように見えた。

レフェリーのカットミスで大量出血しながらも全く動きをとめようとしない真壁に、永田も応戦。血まみれで張り合う二人。大写しになる、鬼気迫る真壁の表情。十年間のプロレス人生をその裏に匂わせる、重み、奥行きのある表情。涙が止まらない。リング上の、そして客席の空気が、もう完全に消えてしまったと思っていた、自分達が愛してきた、かつての、あの、プロレスの空気に近づいてきていることを二人とも明らかに感じ取っている。だから、いくら血が出ようと、試合を止めようとはしない。そして、互いにその感覚を確かめ合うように、一つ一つ技を掛け合う。そう、これがプロレスだ、そう叫びだしたくなるような、生の身体と身体のぶつかり合いが、台本や勝敗を超越してしまう瞬間。魔法のような時間。拭っても拭っても、涙が溢れ出てくる。

「本当に好き」「本当にそう思う」などと気軽に口にする人間がいるが、そんな人の感覚はどうも信用できない。なにについてであれ、自分の感情が嘘か本当か、完全に百パーセント混じりっけなしで確信できる人間なんぞいやしないのだ。嘘の中にこそ、真実を越える力が宿ることもある。そう。プロレスのように。
今までも、そしてこれからも、プロレスという名の美しい嘘が、いつまでも我々には必要なのだ。