先週の日記

月曜
三限に久々に出席し、課題提出。四限、五限と出る。五限は映画の撮影技法の話。案外面白かった。一定数の映画監督において、長廻しに対する強迫的とでもいえるような憧れ、こだわりが見られるのはなぜか、という問題には、僕自身長廻しが非常に好きなのもあって、とても興味をそそられた。先生はその問題を上手く説明できない、と言っていたが、個人的には、ある種の監督は、編集という行為の恣意性に対して何らかの負の感情を抱いている面があるために、長廻しを多用するのではないか、と思っている。例えば僕が個人的に興味を持っている、ジャジャンクーや橋口亮輔なんかの場合は、明らかにその傾向が見える。そこで浮上してくるのは、ドキュメンタリー的手法との関係、という問題。撮影技法との絡みでいうと、ダルデンヌ兄弟とかガスヴァンサントの手持ちカメラを使う事による、あえて手ブレを強調したドキュメンタリータッチの演出は大嫌いなんだけど、彼等の長まわしは大好き、ってのはなんなのか、ってのを突き詰めて考えてみたい。
ただ授業で扱っていたウェルズの作品や、デ・パルマスネーク・アイズ」、ソクーロフエルミタージュ幻想」なんかの場合、焦点の当たっている人物の背景に登場する端役たちの動きまでも厳密にあらかじめ決められているとのことだったので、この仮定はまるで当てはまらんけど。夜はクンデラ読み、ユーロを観た。

火曜
非常にいい天気。散歩日和。昼ごろの回からヴェーラに行く予定が、例によって間に合わず一回分遅らせる事に。久々にHMVに行き、ミュージック、マッケンジーの新譜など聴いて暇つぶし。ミュージックはあまりの音の変わらなさに笑った。シングル曲もまあいいんだけど一方で予定調和な感じもした。デビュー盤を聴いた時のような興奮はまるで感じず。なんやかんやでフジでは見るのかもしれないけど。
ヴェーラで「先天性淫婦」、「伊賀野カバ丸」を観る。どっちもいまひとつ。
友人を誘い渋谷でラーメン。「はやし」は夜営業していないということを知る。福岡の屋台ラーメンの店でとんこつを食べた。きくらげラーメンを頼んだらラーメンとほぼ同じ量のきくらげが入った代物が出てきて驚いた。夜はクンデラ読了し、ユーロを観た。オランダ、クロアチアが好ゲームを展開していた。オランダはファンデルファールトスナイデルの成長が著しい。手堅いボランチ二人もいい感じ。クロアチアモドリッチは二戦目にして本領発揮。ドイツを相手に完全にゲームをコントロールしていた。まだ若いのに、一つ一つのプレーに明確なメッセージがこもっている感じがする。なんだかんだで守備力が高いのも魅力か。

水曜
今日もヴェーラへ。「男になりたい」、「女番長ゲリラ」の二本。前者は、山城新吾主演。彼や梅宮辰男のような、豪快かつ屈託のまるで無い感じには痺れる。憧れる。後者は池玲子杉本美樹の二大巨頭の対決シーンが拝める。スタイルのいい美女が暴れている映画に口をポカーンと開けながら見入りつつ、自分の脳が白痴化していくのを感じる、まさに至福の時。
上映終了後、友人から誘いの電話。馬場へ。なぜか高校生に次郎とボーリングをおごるという謎展開に。馬場次郎はスープがあっさり目で物足りなかった。深夜後輩宅に移動。ユーロ観戦へ。


木曜
志木の後輩宅にて朝までユーロ観戦。ポルトガルが地力の違いを見せつけ、トルコは劇的な逆転勝利。トルコファンの後輩も大喜びしていた。昼頃学校に向かうもトラブルに巻き込まれ、予定が狂う。キアロスタミ特集も行けず。

夕方四時ごろようやく解放される。朝から何も食べていない状態で、腹が減って仕方なく、わけあって無性にとんかつを食べたい気分だったため、目黒「とんき」へ。ヒレカツ定食1800円を食す。減り具合を見計らってキャベツのお替りを奨めてくれる気遣いがうれしい。ご飯もおかわり自由だった。二杯食べた。メインのとんかつは、衣のサクサクした感じが好みだった。スタンダードな美味しさ。もっとも、なにをもってスタンダードなのか、という話で、多くの日本人、そして僕の味覚におけるとんかつの味の基準、というものは、そもそもこの店の味を基準として形作られたという歴史がある、ということでもあるのかもしれないが。常連客やお持ち帰り用のカツを購入する客達への店側の非常に丁寧な対応ぶりにも好感を持った。ただ食べ物を出せばいいという冷めた態度で接することなく、客をもてなそうとする姿勢が残っている店がまだある、それだけで何だか少し嬉しくなるものだ。年配の客の多くが常連さんであるように見えたが、安心して通い続けられる信頼感があるのだろうな、と思う。

帰宅後は疲れていたこともありダラダラ。「とんき」について触れている池波正太郎の文章を読み直してみたところ、ここでのサービスを受けるとキャバレーなどに行こうというような気もなくなる、とまで言い切り、給仕の若い女性を絶賛する記述が目に付いた。どうやら当時は若い女性達が多く働いていた模様。まさか当時の店員がそのまま働いているわけではないだろうが、現在の店員さんには若い女性は見かけなかった。時代かな。あと、値段の安さについても盛んに強調されていたが、正直今の値段は別に安くはないなあと思う。夜中、飽きもせずユーロ観戦。

金曜
午前中に起きて、キアロスタミ特集に行こうと考えていたものの、若干寝坊してしまい結局間に合わず。代わりに今日が最終日の展示、「ナンシー関大ハンコ画展」へ。予想以上に混んでおり驚いた。消しゴム版画の彫り具合を一点ずつ確認する、といった七面倒くさいことをするはずもなく、さらっと見渡しただけであったが、まずとにかく厖大な作品数に圧倒される。馬場を彫った特大の作品から、ミリ単位の小さな作品まで、多彩なバリエーション。有名人以外の人間を彫ったものに、案外魅力的なものが多かった。そこから様々な物語や情景が立ち上がってきそうな喚起力を持っているような感じが。オープニングパーティに集まった各界著名人からのコメント動画集が面白かった。松尾貴史氏、いとうせいこう氏あたりはテレビ史におけるナンシー以前、ナンシー以後という区分が明確にあった、といった真っ当な話をしており、まあそうだよねと納得した。みうらじゅん氏はナンシー氏が自分の老後を予想して彫った作品の話、博士、山田五郎あたりは本人との思い出話。菊地成孔氏は最も好きなコラムとしてデーブスペクター氏を評したものを挙げており、そこで「人間には善、悪、偽善、偽悪、の四種類があり、その中でもデーブスペクターは最悪で、彼は偽悪のふりをした本物の悪である」と言っているとか。そこまでピンとこないけど、含蓄は深いかも。あとはナンシー以後テレビからインターネットへ、の流れが加速されたのは偶然ではない云々。ナンシー氏亡き後のテレビは、今後どんどんつまらなくなっていく流れをもう止められないのかもしれない。すが秀実バクシーシ山下と「笑い」について語った対談記事を立ち読みしたが、特に強い印象はなし。笑いに関しての語りは十年ずれると致命的だな、と改めて思ったぐらい。
夕方からは、シネマライズで「ぐるりのこと。」を観た。トーベヤンソン「誠実な詐欺師」を購入し帰宅。タイトルが最高だ。
夜は今日も今日とてユーロ観戦。

土曜
気合で午前十時前に起床。11時から六本木シネマートでアピチャッポン特集。二本連続。間の時間に会場で合流した友人とマックで昼飯。早起きは不慣れだったためか、一本目の途中で少し寝てしまった。痛恨。上映後、トークショー。つまらんかった。
アピチャッポン作品における森の役割について少し考えた。実家の病院の周囲にジャングルがあったことで、個人的な記憶につながる場所でもあるのだが、一方で奥深くに入ると、前後不覚に陥ってしまう。その感覚はどこか監督の創作に対する態度とつながる部分があるように思った。自分の記憶、個人的な感覚を手がかりに作品を纏め上げている一方で、現場での役者やスタッフとの意見交換や偶然出てきた会話や行動なんかを上手く掬い上げている部分もあって、という。まああと一本観終えたら一度よく考える事にしよう。古本屋で池波正太郎の食エッセイ本買い、一旦帰宅して仮眠を取る。夜は渋谷で飲み。久々に軽薄ノリで長時間過ごしたので結構楽しかったかも。クンデラ本に関して女子の意見を聞けたのも面白かった。女子て。無意識で書いてるとか笑えるな。女子て。

日曜
二日酔いにも負けずシネマートへ。「真昼の不思議な物体」を観た。抜群に面白い。どこまで枠をつくって、どこから流れや即興的な要素を取り入れるか、というバランス感覚が絶妙なのだろう。
映画を観終えた後、六本木を散歩。映画館裏の墓地の周辺は結構いい感じの寂れ具合だった。写真とか撮ったら楽しそう。冗談抜きですれ違う人の四人に一人は外人だった。凄い町だなあと思う。交差点で着ぐるみを脱いでキャンギャルのねーちゃんと談笑しているるおっさんを見た。昨日同じ場所で見た人と同じ人だった。おっさんを応援したくなった。
ヒルズ脇でタコスを買って食べて、しばし読書して帰宅。ドゥルーズなんぞ読み出してみたものの、やはり難しい。とりあえず一回読み通してみてから考えよう、って感じになるか。夜は昨日の代表タイ戦と、ユーロオランダ対フランスを観た。オランダの勢いが止まらない。