川島雄三 しとやかな獣

川島映画初体験。圧巻。ずっとすげーすげー思いつつ観た。
ほとんどのシーンが、同じアパートの一室だけで撮影されているにもかかわらず、テンションが緩んだり、だらけた感じが出る場面は皆無。すさまじい緊張感が終始持続していた。おそらくは、多彩なカメラワークと、会話の流れと有機的に絡んだ、ショットを切り替えるタイミング、リズムの良さが、類いまれな緊張感を生んでいた要因だったんだと思う。とにかく作品を構成する、あらゆる要素が計算しつくされているのがわかった。上質なメロドラマに特有の、何を見せるか、よりどう見せるか、に定位した緻密な演出の数々に感動。極度に抑制、限定された条件で撮られたからこそ生まれてきた映画なんだろう。冒頭流れる音楽などを考え合わせると、能などの舞台芸術の演出をある程度意識していた面もあるのかもしれない。

内容面では、川島監督のユーモア感覚にかなり共感する部分があり、こちらも好みだった。登場人物は全員が全員、身勝手な欲望に忠実に生きており、この作品に登場する人間関係は、全て金銭を媒介とした、利害関係と密接に関わった、騙しあいの関係でしかない。あらゆる愛や信頼を笑い飛ばし、人間の欲深さや、自分勝手さを強烈に戯画化して描くことで、非常にグロテスクな人間模様が現れ、観客は大いに笑いつつも冷や汗をかくような感覚に襲われることとなる。まさに恐怖と笑い、狂気と正気のギリギリのポイントを執拗に突き続ける映画だった。こんな作品ばっかり撮ってたら早死するよそりゃあ、という感じのエクストリーム感だった。そういえば、金銭への執着、というのは自分と遠い部分で、そちらも違った意味で興味深かった。

先日読んだ、メロドラマをフロイト理論で読み解く、的なエルセサー論文との絡みでいうと、あらゆる細部が意味を持った徴候に見えてくる感じと、階段の多用、その効果、あたりは論文のこじつけをそのまま当てはめられそうだった。