ファスビンダー 「出稼ぎ野郎」

アテネフランセにて鑑賞。平日の夕方にも関わらずかなり混んでいた。

愛と金の関係について考えさせられるプロットもなかなかおもしろかったが、なにより撮り方が凄まじかった。数回人物の組み合わせを変えて繰り返される、腕を組んで歩くシーンを除いて、いっさいカメラの移動はなし。しかも、全てのシーンでカメラは、正面か真横から人物やセットに向けられていた。斜めから角度をつけて撮っているシーンがただ一つとしてなかった。これが、途中までは少し違和感があったが、慣れてくるとかなり快感だった。

出てくる場所が限られている中、人物と座る位置の組み合わせだけを変えて、同じ場所、同じカメラ位置での会話シーンがひたすら続く。おそらくポイントは、「反復」と「ズレ」。ミニマルテクノとかでも、同じリズムの反復の中に、少しずつズレが生まれていくところが快感だったりするわけだが、それと似た感じがこの映画のカメラワークにはあったように思う。考えようによっては、似たような日常の繰り返しの中、異質な存在としての出稼ぎ労働者が現れることで、変化が生まれてくるというストーリー展開も、このカメラワークによる「反復」と「ズレ」の表現と対応している気がしなくもない。

撮り方だけでここまでの衝撃を受けたのは、小津の「東京物語」のカメラ目線以来。劇場で観れてよかった。