熊の場所  舞城王太郎

熊の場所

この短編において描かれている「恐怖」は、「ヒミズ」、「シガテラ」といった古屋実の近作から感じられるそれと、どこか近いものであるような気がした。

今作を含め、彼の作品には、福井県の架空の町「西暁」を舞台とするものが多い。福井県が彼の地元であるという点も含めて考えると、フォークナーにおける所謂ヨクナパトーファと呼ばれる、南部の架空の町を舞台とした作品群を意識しているのは間違いないだろう。


・バット男

この短編集に収められていた三作品の中ではもっとも楽しめた。これもなんか「シガテラ」っぽいところがあった気が。システムという言葉を使うのは直球すぎないか、とかバットのメタファーはわかりやすすぎじゃないか、とかちょっとイマイチな部分もあるにはあったが、よくまとまっていると思った。まあ、社会学者の言うような現代社会の有り様(どこまでそれが現実と対応しているかは怪しいところだろう)を露骨に反映させすぎのような気もするけど。


・ピコーン!

性描写が「ドリルホール・インマイブレイン」並に狂っていておもしろかった。
犯人がオウムや酒鬼薔薇あたりを連想させるようなオカルト野郎、という設定は「煙や土か食い物」と一緒かな。


・全体

誰もが言っていることだろうが、やはり言葉の選び方、文体は魅力的。
日本語の変化というものに非常に敏感な作家だとは思う。
比喩を尽くして風景や出来事を描写しようとするよりは、カタカナ言葉の擬音語を使って一言で言い表してしまう感覚とかは、よくわかる。一定以上の年齢の人から見たら、なんじゃこれはけしからん、って感じなんだろうけど。