ポール・オースター 幽霊たち

書くということとは、物語とは、といった問題についての深い思索が反映されたメタフィクションではあるが、決して過去の文学作品に対する反動から、ラディカルに前衛性を追い求めたような作品ではない。

デビュー作シティ・オブ・グラスと同じく、古典からの引用や過去の作家への言及を、比較的素直な形で取り入れた作風をとっている。なんというか、中退とはいえ院に進学していただけのことはあるな、と感じさせるような優等生っぽさ、素直さが彼の作品には出ている気がする。文学史的な流れに自覚的でありかつ、その流れにぴたっとはまる、正統派の作家と言えるのではないだろうか。オースターは。

含みを残したラストは、おそらく作中に引用したホーソンの短編へのオマージュなのだろうが、なかなか効果的だったように思う。

無理に実験的な手法を用いずとも、メタフィクション的なテーマなんぞいくらでも過去の作品からでも見つけてこれるんだ、というような主張があるんだとしたら、ある意味それもおもしろい。

起伏のあまりない物語でありながらも、読み手として興味を失うことなく読めたというのは、おそらく彼の文章そのものにかなりの魅力があるということなのだろう。簡潔な文体だから、リズムよく読めるというのも一因か。

物語化の欲望は抑えきれない、とか他者を監視することが自己を見つめることになる、みたいなくだりは、まあありがちといえばありがちかな、とも思ったが、全体としては前作より格段に出来が良かった気がした。

オースターが人気あるのは、前衛すぎず、わかりやすい中にも深みがあるってことで、広い層に受けた、ってことなのかな。実際どんな層に人気あるかとかは全く知らんけど。

「ちょいメタ」 は結構重要なキーワードな気がする。彼の作品の中で。半分本気で。