代書人バートルビー メルヴィル

何をしろと言われても、「せずにすめばありがたいのですが」と言い続け、何もない壁をひたすら見つめ続ける男バートルビーが結局刑務所で死んでいくまでを描いた不気味極まりない小説。素直に読めば、仕事に追われ日々の生活に何ら喜びを感じることができないような、所謂仕事人間ばかりを生み出す社会に対する痛烈な批判、とかいうことになるのだろう。そして、実際多少はそういうメッセージも含まれているのは確かだろう。
ただ、そんな風にして簡単に片付けてしまってもいい小説ではないようにも思う。
バートルビーの徹底的な受動性に何を見るのか、と言われても一言で言えるわけではないが、そこに何かがあるとしたら、一体それは何なのか、と読者に考えさせるような面を持っているのは間違いないと思う。容易に答えを出せるはずのない、哲学的な思索を喚起するような側面が、この小説の魅力の一つにもなっていると思われる。