審判 カフカ

銀行で働くKが、思い当たる罪が全くないにもかかわらず逮捕されてしまい、裁判にかけられ、振り回されたあげく殺されてしまうまでを描いた未完の傑作長編。メルヴィルカミュにも通ずる不条理が描かれている。裁判所の不条理なまでの強制力は、おそらくフーコー(だっけ?)言うところの生権力うんぬんのメタファーなんだろう。
自作を発表することがなかったために、常に仕事に追われつつ文学を追求しなければならなかったカフカが実人生で感じていた不満も、おそらくはある程度反映されているのだろうが、今作における権力構造の不透明さは、古今東西の様々な組織にも当然当てはめることができる普遍的な問題だと思う。
文体面では、視点や発想のわずかな移動を描く上手さが目についた。保坂がしょっちゅう言及しているのも納得といった感じ。Kの心理描写の細やかさなんかは特に上手い。