プラトン 饗宴

文芸作品としても十二分に通用する美文で描かれた、「エロス」を巡る哲人たちの対話篇。
「饗宴」とは平たく言うと飲み会での真剣な議論、といった意味らしい。本書はさながら愛とは何かについて中年男達が熱く語り合う、真剣四十代しゃべり場といった趣であろうか。

二項対立を否定するイデア論は、実は案外仏教における空思想や神秘主義との共通点が多いのかもしれない。

ソクラテスに託して語られる理想的な克己心とか理性、道徳心といったものは、ようするに他の動物と人間とを決定的に分かつ部分なんだと思う。ただ、いくら理想的な道徳心を頭で理解していたとしても、結局のところ若い人間はリビドーが強いので、そこで理想と現実の葛藤が起きて、色々と悩むことになる、ってことなんだろう。

そのへんがフロイト超自我と自我の対立うんぬんの話につながってくるのかな。

哲学ってのは畢竟人間固有の道徳心超自我)をとことん突き詰めようとする学問なんじゃないかと思う。現実は別として究極の理想をどのように設定するのか、という部分で思考するわけなんだろう。おそらく。だから知識人とか呼ばれる人達はどうせ絶対になくなりゃしないと確信していたとしても、戦争が起きるたびになんとかそういった現実に負けずに対抗できるような言説を無理矢理紡ぎ出そうとして四苦八苦するんだろうし、しなきゃいけないんだろう。