筒井康隆 文学部唯野教授

白い巨塔」かと思うような、大学内部での教授達の権力抗争を縦軸に、唯野の軽妙洒脱な文学理論講義を横軸にして描かれた作品。
相当理論的に難解な事象を扱っていながら、高度のエンターテイメント性を保っているところが素晴らしい。見事と言うほかない。
刊行当時、シニフィアンシニフィエの説明が間違っているとか言って目くじら立てた批評家がいっぱいいたらしいが、そういう態度こそ本作の中で散々皮肉られている態度なんじゃないのか。細かいことゴチャゴチャ言うなよ、おもろしろくないから、って話。あとがきなんかを見ると、作者自身そういう状況を楽しんでいたようで、笑える。
権力抗争パートはなかなかブラックユーモアが効いててよかったが、自分の将来設計なんかを考え合わせると全然笑えなかった。
講義パートはおもしろすぎだった。難解な理論をユーモラスに語れるような、彼みたいに冗談のわかる人が大学教員にいっぱいいたらいいんだろうが、悲しいかなそういう人間は、大抵大学で教えることなんか嫌がるというのが、現実なんだろう。
難解な理論書を批判的に読んで皮肉るというのは本当に凄いことだと思う。多少厳密さを犠牲にしてでもそういう読み方をしていかんと、アカデミズムはどんどん現実から遊離していって、それこそタコツボ化して内輪ウケの応酬、みたいになってしまうに決まってるし。
最後のポスト構造主義の章で、現代文学は古典みたいに読み飛ばして読んでも良さが掴めない、ゆっくりと精読するような貴族的な読みをしないといかん、みたいなことを言ってたとこが一番考えさせられた。
自分は基本的に速読とか斜め読みといった読み方が苦手で、今までテスト勉強やレポートで仕方なく読まされる本とかを除くと、ほとんどの本を精読してきた。ただ、そのため読むスピードが遅く、長い小説とかになるとどうしても飽きてしまう、というのが一つ悩みとしてあった。ここで筒井が言ってることに従えば、古典の序盤とかは流し読みしてもあんま変わらんみたいなので、以前挫折したマンの「魔の山」とかを試しに適当に読んでみようかな、などと思った。