前田日明とUWF

最近、前田日明関係の資料を色々と漁っている。部屋でたまたま目に入って読んだ自伝で彼に惹きつけられた。私は85年生まれなので、もちろんリアルタイムでUを観ているはずはなく、リングスも当時WOWOWに加入していなかったため、全く見たことがなかった。日本格闘史の流れで、前々からUには興味があったのだが、見るきっかけがなかった。

現段階で観たのは、youtubeにあがっていた画像と、引退後にリングス監修で出た前田総集編ビデオ全三巻のうち二巻まで、書籍が自伝と、紙プロに掲載されたインタビューをまとめた「紙の前田日明」。

前田とUWFが80年代、一部の熱狂的ファンからカルト的人気を誇った理由はなんとなく大枠でつかめた。結論から言ってしまうと、一切妥協せず理想に向かい突き進み、当時ある程度までそれを成功させていたという点と、ムキになれる人間味の持ち主であったという点、この二つがでかい。

当時所謂「受けの美学」に代表されるような、プロレスのショー的側面を、演劇論とバルトの「レッスルする世界」の理論を援用して論じたとされる、村松のプロレス論(未読。)が話題を呼び、猪木がそれに同調するという流れの中で、プロレス内部のショー的側面とリアルファイトの間の線引きに大きな動きが出てきていた。

そういった状況下で、ショー的側面ばかりが強調される状況に強い不満と怒りを感じていた前田は、様々な大人の事情が絡んだ末に結果的にトップとしてUWFを引っ張る立場に立つ事となり、そこで自らの理想を体現した、ゴッチスタイルのキャッチレスリングを基調とする、所謂UWFスタイルを追求していくこととなる。

このUWFスタイルというのは、プライドやUFCなんかを見慣れている現在の目線で見れば、ガチでやってるわけではないことはすぐわかるんだが、当時のファンが最強幻想を投影していたのもわからなくはない、おもしろさも持っていたのは確か。
具体的には、ロープに振らない、コーナーに登ったりしない、わざと相手の攻撃を食らったりしない、というあたりが従来のプロレスとの相違点。そういう中で、打撃と
関節技を中心として、時折スープレックス系の投げ技などを挟みつつ試合は展開する。ダウンした相手をフォールして3カウント、ということはまずなく、ほとんどの試合が関節かスープレックスのままホールドする形で決着する。

特に初期のUに関しては、ルールがあまり定まっていなかったのもあって、非常に激しい打撃の応酬が見られ、ある意味現在の総合以上に興奮できるような試合もあった。初期の前田VS藤原戦なんかはまさにそうで、壮絶という言葉でしか形容できないような試合だった。ただ、第二次Uあたりになってくると、ルールも整備されてきて激しい試合は減り、かつ所属選手も少なかったから試合がマンネリ化してくる面も、前田本人が認めていたように、少なからずあったように思う。89年頃、前田が異種格闘技路線に走り出したあたりからはかなりひどくて、特に見るべきものはなかった。正直。ガチでない異種格闘技戦、という時点でしょっぱくなるに決まってる、という話。

おもしろいのは、総合とプロレスの中間に位置するUWFにおいて、初期の激しい打撃と関節の応酬に感じられた魅力というのは、皮肉にもある種Uにおいて形を変えて生き残った「受けの美学」の発露であったように思えることである。

U解散までの流れには、選手、スタッフととの人間関係やら金銭面の問題やらが複雑に絡み合っていたらしい。そのへんの詳細はいまだに謎とされている。結局リングスを一人で立ち上げるに至った経緯を振り返り、ガキの頃太宰が好きだったという前田の兄貴は、「また人間不信になった」だの「高田、お前もか。」だの言ったりしていた。そのへんの香ばしさと紙一重の発言も魅力の一つだ。

「紙の前田日明」なんかを見るとわかるのは、レスラーの中では前田はかなり教養があるほうであり、なかなか弁の立つ人だった、ということ。仕事柄インタビューの機会が多く、なおかつ自分の見せ方が重要なプロレスラーにとって、しゃべりが上手いかどうかは重要な要素となってくる。例えば悪い例としては新日の中西なんかがいる。天然すぎてどう扱っていいかわからないので、実力あるのに糞みたいなアングルしか回って来ない。
それに対して前田は自分の見せ方のみならず、プロレスとは何か、といった問題にも非常に意識的だった。バルトや村松のプロレス論を読んだ上で、そこに無邪気に乗っかっていった当時の猪木を痛烈に批判すると言う芸当はおそらく他のプロレスラーには出来なかったはずだ。

あとは、ショーケンブコウスキーなんかもそうだが、感情に任せて無茶しちゃうところもいい。有名な話だけでも坂田をボコボコにした話や、女子便所襲撃事件、猪木へのハイ、長州への蹴り、最近だと金子賢にキレたりなど、武勇伝には事欠かない。このへんの直情っぷりというか、ムキになれる感じがたまらん。

自分のケツを自分で拭くことの重要性を常に強調してるのも、時代遅れの説教親父みたいで笑える。やたら故事成語なんかを格好つけて引用するところも素敵。
U立ち上げのときの「選ばれたものの恍惚と不安、二つ我あり」とか。ひどい。