マーティン・スコセッシ レイジング・ブル

落ちぶれた後を徹底的に描ききっているのがとにかく見事。
世界チャンピオンになって終わり、だったらちょっと深みのあるロッキー、という程度の映画になっていたと思うが、その後の没落をしつこく描いていくことで、それまで何度か道を踏み外しそうになるも、なんとか持ちこたえ、危ういところでバランスを保ってきたラモッタの描写が生きてくる。
三行半を突きつけられた妻の家に乗り込んでチャンピオンベルトを破壊、即換金しに行くところとか、最後の楽屋シーンで、鏡の前で独りで練習した後、散々ボクサー時代の素振りを繰り返して、自分を奮い立たせようとする場面の哀しさといったらなかった。素振りを三回、四回と繰り返すところは本当に素晴らしかった。人間の業そのものを見せつけられたようなシーンだった。
ロバートデニーロの熱演にも驚かされた。タクシードライバーといい、これといい、驚異的な情けなさを醸し出す演技は凄味があった。体重絞ったり増やしたりも、さぞ大変だっただろう。