キム・ギドク 悪い女

ある日、売春婦ジナが、前任者と入れ替わりに民宿「鳥かご」にやって来る。様々な軋轢を経て、徐々にジナと同年代の女子大生ユナを中心とする、民宿を営む家族との心の交流が実現していく。

前半は、ギドク節炸裂といった感じで、男の理性で抑えきることの困難な欲望について徹底して露悪的なまでに描ききっている。二人とも我慢できずジナと行為に及んでしまった民宿の男親子が、偶然泌尿器科で対面してその後波止場で酒を酌み交わすシーンなど、時折ユーモラスな場面もはさまれていたが、基本線としては通常思わず目を背けたくなるような部分にこそ焦点を当てる、いつものお得意パターン。

後半は、少しずつ家族との心の交流が実現していくさまを見事に描いている。ジナとユナが互いに相手の行動を遠巻きに観察し合うシーンでは、ユナに見られていることに気づいたジナが彼女を巻いて逆に観察する側に回ると、今度はユナがそれまでジナが行なっていた行為を反復する。ここでは明確に、それまでのジナを異なる世界の人間として扱い、同じ人間として彼女を見ることを頑なに拒否してきたユナが、彼女を自らと同じ一人の人間として認めはじめる、という変化が表されている。とてもいいシーンだったと思う。
ジナを金づるにしようと企む昔の男を家族総出で撃退する場面も泣けた。

ユナが少しずつジナを通して、生きていく上で決して避けて通ることのできない性の問題を受け入れ、変化していく様が感動的だった。

終盤は娼婦の聖性が非常に良く出ていたとも言えると思う。娼婦と聖母は正反対のようでかなり似通っているところがある、というようなよくある話ではあるが。