ティム・バートン バットマン・リターンズ

思ったより切ない映画だった。
善悪の対立をどう描くか、というのがこのシリーズのポイントなんだろうが、この映画も単純な勧善懲悪ものにはなっていなかった。

主筋に対する、キャットウーマンの絡め方がうまい。愛憎入り混じる感じを、男女関係とパラレルにして示すことで、娯楽性を損なわずに正義とはなんぞや、的なお堅いテーマを無理なく盛り込んでいる。
ブルースとセリーヌが仮面舞踏会に二人だけ素顔で現れるところなんかも、うまいなあと。まあ仮面の話は深追いすると、誰もが仮面をかぶっている、個々人のアイデンティティなんぞ仮面の組み合わせでしかない、みたいな恐い話になってしまうんだが、そこまで深刻な空気は出さずに、さらっと描いているのがいい。

自己に向かうものも含め、怒り、破壊衝動の問題なんかも、本当は根深いアメリカの病理と関わっているんだろうけど、頻発する爆破シーンのアホ臭さゆえ、楽しみながらぼーっと観られてしまう。
ただ、後でよくよく考えると、けっこう深刻な問題がたくさん含まれている映画だったのでは、という気がしてくる、そんな良作。

まだ観てないので妄想だけど、おそらくダークナイトはそういった深刻なテーマに関して、笑いぬきでかなり突き詰めた感じになっているんだろうと予測される。そんな映画が歴代興行収入一位になってしまうあたり、アメリカはそろそろ本気であれなのかなあ、と心配になってしまう。