アン・リー ブロークバック・マウンテン

とても良く出来た映画だと思う。
構造的には古典をしっかりと踏襲している感じで、シンプル。特に捻りがはいっているわけではない。ただ、物語の基本になっている二人の愛情が異性愛ではなく、同性愛ということで、それに伴って細部に古典的なハリウッド映画とのズレが出てきて、まあそれ目新しいといえば目新しい。個人的には、ズレそのものよりも、そういったズレの処理の仕方に、うまさを感じた。カウボーイ達のいわゆる男同士の友情、といった定型的パターンに収められがちな関係性を上手く利用しているあたりとか、そもそも二人が結ばれて幸せになれない理由が、同性愛に対する差別を横行させる元となっている、ハリウッド映画が無意識に影響を受けているところの、「排除の論理」にある、というところとか。多重的な構造をとっているのが本当に上手い。ただ、差別、ダメ、絶対!とかいってPCを押し付けるよりも何百倍も効果的にそのあたりの問題について考えさせられる効果があるように思えた。主人公達の悲恋に同一化、感情移入して映画を観た後で、なぜ二人が別れねばならなかったかを考えると、そもそもの原因がそれまでアメリカ社会が、ハリウッド映画が無自覚に受け入れてきた異性愛中心の価値観だったことがわかる、という。古典ハリウッド映画の手法をそのまま使いながら、その問題点を内側から抉り出すようにして批判している感じ、とでもいうか。

分析的に観るとそんな感じなんだろうが、まあほんとはそういうのはどうでもよくて、なにより細部の丁寧な描き方がいい。ヘテロであっても誰もが主人公二人に気づけば感情移入してしまうように作られていることが全てだろう。久々に色々思い出さなくてもいいことを思い出したりして胸を締め付けられつつ観た。感情の温度差はいかんとしがたいものがあるなあ、とか。いやあ切ないなあ、とか。最初に男同士でからみ出した場面では、これが二時間以上はきついなあ、などと思ってしまう部分は間違いなくあったのだが、終わってみれば、かなりずっぽり同一化して観てしまった感じで。で、自分の観賞態度なんかも事後的に反省しちゃったりで。いや、良く出来ております本当に。