残雪 暗夜

世界文学全集より。
時代順に代表的中短編を並べた構成のようだった。
最初の二編(「阿梅、ある太陽の日の愁い」、「わたしのあの世界でのこと―友へ」)は意味がわからなすぎて、笑える一方で恐くもあった。特に後者は気がふれているようにしか見えない部分があり、幻想小説と呼ぶには不気味さが強すぎる感じが。

「帰り道」「不思議な木の家」「世外の桃源」の三篇は、短い中に、うまくまとまりをつけながら狂気を取り込んでいるように見える。どれもカフカボルヘスの短編に似た部分があるのも確かなんだろうけど、特に「世外の桃源」なんかは、彼女独自の魅力が良く出ているように思った。山の頂上の大木に掛かっている、巨大なブランコや、石臼の喚起するイメージの豊穣さとか、どこか滑稽さすら感じさせる、村の閉鎖社会の描写なんかが非常に読み応えあった。

残雪は「私の作品は理性を徹底的に排除しなければなりません」と語り、強い理性によって理性を押さえ込みながら、作品を書いていくらしい。そういった側面がよく見えたのが、中篇「暗夜」だった。意識の深い部分、暗闇から持ち帰ってきた言葉のみで紡がれる物語は、一見荒唐無稽なようであっても、ある種の論理に貫かれているように見えた。読んでいて、悪夢を記した夢日記を読まされているような感覚に襲われた。

「痕」は全集に入っている作品の中で最も奇妙かつ中毒性の高い作品だった。全体の構成はカフカの長編に近い部分もあったが、濃厚な死の匂いと間の抜けたようなユーモア感覚は彼女にしか出せないものだろう。鍛冶屋の強烈すぎる存在感、どんどんと周囲に向ける関心、興味がなくなっていき、その分だけ死に近づいていく痕。恐怖を感じつつも先が気になって仕方がなく、ページをめくる手が止まらない、そんな作品だった。