川島雄三 幕末太陽伝

ネタバレ。

大傑作。
石井輝男江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」の落語版という感じ。
居残り佐平次」を中心にさまざまな古典落語のエピソードを下敷きにして、品川遊郭での人間模様が描かれる。
金銭を媒介としたコミュニケーションにおける、騙しあい、化かしあいをひたすらユーモラスに表現し続けるあたり、他作品との共通性強し。フランキー堺演じる主人公は、居残りをするうちいつのまにか宿内のさまざまな懸案事を解決し、小金を稼ぐようになっていく。唯一の例外として、親のせいで遊郭に売り飛ばされそうだった若い女の子に対してだけは、十年後に支払いを受ける約束をとりつけただけで相手を信用して助けになる、という場面があり、異彩を放っていた。とはいえ落語でいうところの人情噺的な甘えの感覚が現れていたのはそこぐらいで、基本的にはお金以外何も信じずあらゆる対人関係における感情の動きを笑いつくす方向性。監督の症候がもろに出ている感じ。叶恭子イズム。肛門期。

例によってフランキー堺が神がかっていた。
殿山泰司小沢昭一の名演も最高。殿山先生が親子で同じ遊女に騙されるくだりとか、小沢先生が死んだふりしてばれるまでのしょうもない展開などは、ベタではあるが絶対に笑ってしまうように緻密に構成されており、感動的ですらあった。カタルシスをもたらす場面など全くなかったのに少し泣きかけた。
死の匂いを濃厚に感じる終盤の展開は、夭折した監督自身の健康問題と関係しているのかもしれない。