終わらない物語 アビバの場合 トッド・ソロンズ

いつもと比べるとユーモアは抑え目だった気がするが、彼の映画の中では最高傑作と言ってもよいかもしれない。七人の女優に一人の主人公を演じさせるという設定は見事。というか七人の人選が最高だった。一人の有名女優を除いて、他は素人のブサイクばっかり。しかもデブかガリガリかのどっちか。黒人が二人混じっているのも、痛烈なアイロニーでよかった。改めていかに人間の印象が見た目に左右されるのかということを痛感させられた。

ストーリーもあまりにも救いようがなくて素晴らしかった。映画作るとかなんとか言ってる白デブの勘違い野郎に三こすり半で中田氏されて妊娠、中絶手術に失敗して子宮摘出、その事実を家族に知らされないまま子供を産むことだけを希望として生きていく、っていう。場面が変わって演じる女優が代わるごとに、自分の中での名前も変わっていくというのがなんともいえず悲しい。そうやって現実逃避のために別人格をどんどんつくっていった挙句、ビリーミリガンみたいなことになってしまうのかな、とか考えると。

原題はpalindrome「回文」。物語は最終的に、最初のダメ男と再び森の中でやっちゃうところで終わる。相も変わらず子供が出来ることを期待しつつ。

自分は変われるはずだ、と信じて行動してきた主人公が、結局全くといっていいほど変わることのできないまま物語は終わる。まさに回文。終盤運命論者のいとこかなんかが、主人公に人間は本質的に変わることなんかできない、とか言うシーンにもあらわれているが、本作のメッセージは、人はそう簡単に本質的に変わることなんてできない、ただ見た目が変わるとまわりからの印象は簡単に変わったりするんだけどね。ということだろう。

中盤、キリスト教徒の駆け込み寺を舞台としたママ・サンシャインの章には、一瞬救いのようなものが垣間見えるシーンがあった。やっぱ最後は宗教ってことなのか。ここはもう少し考える価値がありそうだ。まあ、この章も結局駆け込み寺のホストファミリーの人達が中絶廃止論者で、主人公の中絶手術をやった医者を殺させる、ってあたりに闇の部分は描かれているわけだが。それでも他の章が終始真っ暗なのに比べると、この章には幾分ましな感じはあった。明らかに。