ジム・ジャームッシュ ストレンジャー・ザン・ザ・パラダイス

鑑賞後の正直な感想は、悔しいの一言。
ちょっと腹立つけど確かにカッコいい。久々にこれは逆立ちしても撮れんわな、と感じた映画だった。映画撮ったこともない糞餓鬼まで嫉妬させるとは、たいした才能だ。

やや引き気味のショットでの長廻しが中心で、ワンシーンワンカットで撮られている所も多かった。その際のカメラ位置が絶妙だったような気がした。滅多にそういう面に主な注意を集中して映画を観ることはないのだが、それでもハッとさせられる場面がいくつかあった。雪の降る線路そばの場面、最初の飛行機が飛んでいくところ、その他色々。おそらく計算しつくされた構図なんだろう。白黒ってことで目立ってくるんだが、光、陰影の表現も見事だった。固定カメラが多い作品でよく見る演出だが、登場人物が来る前、去った後に数秒間彼等の映っていない映像をあえて残す、という演出が何度かなされていた。効果的だったと思う。

アメリカに住むハンガリー人の主人公ウィリーのもとにある日従姉妹のエヴァがやってくる所から映画は始まる。ウィリーの友人も含めた三人の会話劇を中心に、あっちこっちにふらふらする三人をユーモアを交えつつ描いた映画。

ストーリーの基盤にはアメリカ的な所謂ロードナラティブの伝統が息づいている。鑑賞中すぐに連想したのはケルアックの「路上」。車で国内を移動するところと言い、計画性のなさといい、よく似ている。ありもしないフロンティアを探しての旅だから、これといったオチがつくわけでもなく、ひたすら動きつづけるしかない、ってあたりまさにロードムーヴィーのお手本のような内容。今まで観た中ではヴェンダース「さすらい」と並ぶ傑作ロードムーヴィーか。

途中でぼそっとウィリーの友達だかエヴァだかがどこに行っても一緒だな、といったことを雪が降り積もる線路近くで言うシーンがあった。さりげなさといい周囲の光景といい、いい場面だった。

会話の内容なんかどうでもよくて、思想なんか欠片も感じさせないように作っておいて、雰囲気だけを伝えよう、という監督の意図がすごく伝わってくる映画だった。だからスタイリッシュ、とかカッコいい、という印象が出てくるんだろう。見事にやられたな、という感じ。

ヤク中が売人と間違えてエヴァに金くれるとこや、ウィリーの母親が出て行ってしまった三人に汚い言葉を吐きかけるとこなんか、かなりツボだった。ユーモアのセンスも良い。

傑作。ジャームッシュの最近二作なんかはこれ観ちゃうと出来損ないにしか見えん。