カート・ヴォネガット 国のない男

偉大なるヴォネガットの遺作エッセイ集。さらっと読めた。
様々な物語の主人公がさらされるアップダウンをグラフで表して比較する、という文章でカフカ作品をボロクソに腐していて笑えた。あえて極端な表現を使っている面もあったのは間違いないとは思うが、そこに、とにかく読者に少しでもマシな気分になってもらいたい、というヴォネガットストーリーテラーとしての矜持を見たような気がした。彼の小説はどれも、きっちりと閉じた幻想として機能する、お話だったなあ、と思い出す。戦争という圧倒的な現実を自らの目で目撃してしまった彼にとっては、フィクションの世界は、ある種の理想を体現する幻想を表現するものでなくてはならなかったのだと思う。